大腿部の軟部組織肉腫に対して辺縁切除を実施した犬の1例
<はじめに>
犬の四肢に発生する腫瘍として、軟部組織肉腫は比較的発生率が高い。挙動として、遠隔転移率は低いが、局所の再発率が比較的高いという性質を持つ。また通常は緩徐に進行し長期間で巨大な腫瘤を形成することもある。
<症例>
ウエルシュコーギー オス 14歳
かかりつけの動物病院で、脂肪腫と診断され経過観察していた。徐々に増大しここまで大きくなったが、最近急速に増大し、また表面が破裂しそうになってきたため、セカンドオピニオンを求め受診された。
<診断>
体重14kg 体温38.0℃ 心拍数160回/分 呼吸数30回/分
一般状態 :良好
一般身体検査 :右大腿部に10×10㎝の皮下腫瘤あり。腫瘤はやや可動性があり、周囲との固着はなかった。(図1)
レントゲン検査:特記すべき異常所見なし
血液検査 :異常所見なし
図1
細胞診 :紡錘形の腫瘍細胞が多数採取された
仮診断 :軟部組織肉腫うたがい
以上の所見から軟部組織肉腫が疑われたため、確定診断を得るために組織生検を実施した。
生検では14Gのtru-cut生検針を使用した
<病理診断>
軟部組織肉腫
<治療>
第10病日 手術を実施した。手術は「腫瘍辺縁切除」を選択した。麻酔に問題はなく、覚醒も良好であった。計画通り日帰りとなった。
術後の病理診断は軟部組織肉腫 グレードⅡであった。
手術前
手術後
手術後
<考察>
軟部組織肉腫は組織学的グレードにより、1、2、3の分類があり、3が最も高悪性度である。3の場合は遠隔転移率は約40%と高いが1、2の場合は7~15%とそれほど高くはない。また局所再発率が高い傾向があり、3の場合は辺縁切除だと80%再発するという報告もある。しかし1、2の場合は辺縁切除でも10%しか再発しなかったという報告もある。
今回のような巨大で皮膚縫合が困難な場合、根治的切除には断脚が必要であるが、14歳という高齢のコーギーであり、現時点で症状もないため断脚は選択せずに、あえて「辺縁切除」を選択した。今後長期的に考えると再発のリスクはあるが、それでも1~2年間は再発なく、良好に生活できる可能性が高い。腫瘍外科では腫瘍の性質や症例の年齢を考慮し、サージカルドーズを決定するべきである。